「一番早く駅に着く道でいってください」

    運転手は迷わず高速道路のインターチェンジへの道を選んだ。
    12月27日午後5時。
    タクシーは100kmオーバーのスピードで追い越し車線を気持ちよく走り続ける。
    街灯のナトリウムランプの流れがその気持ちよさをさらに助長する。

    後ろを振り返ると背後はすでに夕闇。
    前方はぽっかりと雲間が切れてそこから夕日に照らされた空が明るく光っている。
    タクシーは、今まさに閉じられんとしているぽっかり空いたその出口めがけて疾走しているかのようだ。
    そして、それは今の僕の気分にぴったりだ。


    春から始まったあるプロジェクトに携わり特に忙しかったここ数ヶ月。
    12月のほとんどは東北新幹線最寄り駅から車で1時間ほどのこの工場にいた。
    昨晩夜12時ころ、大アクシデントがあってあわやこれで休暇もパーかと思ったが・・・

    明日の今頃はシベリアの上を飛んでいるはず。
    確か最後にアエロフロートに乗ったのは8年前。
    あの革命の前日に モスクワにトランジットで降りたのが最後。
    あの時、空港の係員が妙にそわそわして落ち着きなく、
    トランジットカウンターの女性がやけにだらしなかったを思い出す。

    ソ連ではない初めてのロシア。どんなふうになっているだろう。
    明日の便はA310。イリューシンやツポレフはもうあまり使っていないみたいだ。
    昔出してくれたアイスは?スリッパは?妙に堅い黒パンは?

    そんなことを考える余裕がやっと生まれた。
    これから一度自宅に戻り準備と少しばかりの睡眠ののち成田そしてモスクワ→パリへと向かう。
    未だスタート地点より手前だが、助走がついて気分は一気に「旅」へと向かっていった。

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